ANA乗客オーバーで出発?!航空ニュースを考える。

ちょっと気になったニュースがあったので、旅ログの途中ですが航空ネタでひとつ書きます。

9月30日、ANAの福岡発羽田行き256便が定員405人の飛行機に406人を乗せて動きだした、というニュース。
飛行機がプッシュバックされて動き出した後、離陸前に客室乗務員が1人立ったままの乗客がいることに気がつき、飛行機はスポットに引き返したそうです。
その後ANAは国土交通省航空局から厳重注意を受けていますが、国土交通省が調査したところ、他社を含めて過去4年半で、搭乗手続きをした人数と機内の乗客数が合わないまま機体のドアを閉めたケースが約230件あったそうです。
そんなに?!と驚きますが、まず、今回の定員超過がなぜ起きたのかをみてみましょう。
この便を予約している2人連れの乗客がいましたがこの2人、うっかり2人ともそのうちの1人の搭乗券を使って保安検査場に入り、搭乗ゲートも通過したそうです。
国際線だとしっかり1人1枚ずつ搭乗券が出るし保安検査場入る時も搭乗する時もパスポートとの照合があるから気づけますが、国内線の場合、本人と の照合はほぼないし、スマホの画面とかで同じ搭乗券を何回でも何台でも表示できますからね。
もちろん保安検査場でも搭乗ゲートでも2人目が通過した時に「この人はもう通過していますよ」というエラーメッセージが出たはずですが、どちらでもスタッフは「たぶんこの人、続けて2回バーコードをかざしてしまったんだな」と判断し、本当にすでに通過済みの乗客の搭乗券を持っているとは思わなかったようです。
一方でチェックインカウンターでは、記録上2人目の乗客は保安検査場を通過していないことになっているので(実際は通過してるけど、1人目の搭乗券をかざして通過してるから)、その人はキャンセルしたものとみなし、空席待ちの他の乗客をチェックインします。
これにより、座席は405席に対し、乗客406人という定員超過が発生したわけです。
これ、たまたま満席のフライトで座る席がなかったから発覚していますが、もし一席でも空席がありそこに着席していたら、たぶん気づかないまま離陸しています。
この件、保安検査場でも搭乗ゲートでもエラーメッセージをみてスタッフがもう少し時間をかけて調査すれば、防げたはずです。
しかしそれが防げなかった理由は何なのか。
1つは、国際線に比べて国内線が甘く考えられていること。
他の国の国内線に比べても日本の国内線、甘いと思う。
航空券と身分証明書との照合がほぼないから他人名義の航空券で搭乗ができてしまう。
さらに液体物も持ち込み制限が緩く、ボトルのワインとかも持ち込める。
これ、国際線ではあり得ないこと。
もう1つは、国内線が慌ただしすぎること。
国際線ではだいたい出発の45分から1時間前に締め切るチェックインを、15分前ぐらいまで受け付けています。
当然、保安検査場通るのも、搭乗するのも時間ギリギリ。
搭乗開始自体、国際線の出発およそ30から45分前に対し、国内線は10から15分前とギリギリのことが多いです。
国際線も国内線も、飛行機の大きさは基本的に変わりません。
ヨーロッパなどは国内線はほぼ小型で約150人乗りのB737やA320といった飛行機ですが、日本の場合は国内線でも400人以上乗れるB777などが飛んでいます。
外資航空会社の地上職員として国際線のハンドリングしか経験のない俺は「国際線と同じ人数の乗客を、よくそんな短い時間で搭乗させられるな」と感心していました。
しかしそれにより、エラーが発生した時に地上職員が対応できる時間も限られてしまいます。
保安検査場でエラーメッセージを受けて「少々お待ちください」と乗客を待たせ、警備員から航空会社のスタッフに連絡、さらに航空会社のスタッフもチェックインカウンターから搭乗ゲート、オフィスなどに連絡し、エラーの原因調査や対応を相談。そんなことをしているうちに便の出発時間は過ぎてしまいます。
航空会社にとって遅延はコストです。
地上職員の中には「絶対にフライトは遅らせられない」という意識が強くあります。
そこで、ついつい「同じ乗客の二重かざしでエラーが出たんだろう」と安易に考えてしまうクセがついていたのではないでしょうか。
背景には、日本の場合は国内移動の手段として飛行機以外に新幹線が北から南まで走っており、「飛行機も、国内線は新幹線と一緒」という感覚があるのだと思います。
乗客においても、離島など飛行機しか飛んでいない路線は別にして、大都市間の幹線においては新幹線と飛行機はどちらも選択肢にあり、飛行機に乗る時も新幹線と同レベルの簡易さ、便利さを期待しています。
特に航空会社にとって重要な顧客であるビジネスマンはそうでしょう。
もし国内線が国際線並みに時間がかかり、繁雑な手続きが必要になったら、多くのビジネスマンが新幹線に流出するリスクがあります。
なので、どうしても航空会社は国内線の搭乗手続きを簡素化し、時間も短縮せざるを得ないのです。
今回のインシデントは確かに保安上、安全上のリスクですが、ルールと手続きの厳格化は乗客の利便性を損なうことになります。
この先、航空会社はどういう対応をしていくか、頭が痛いことでしょう。
ところで、国土交通省の調査によると、過去4年半に搭乗手続きをした乗客と機内にいる乗客が不一致したまま飛行機のドアが閉められたケースが230件ほどあったということですが、これはどういうことでしょう。
今回のようなミスが230件あったのでしょうか。
そうは思えません。
そもそも、先ほども書きましたが、今回のようなミスは満席のフライトでなければなかなか気づけませんから、航空会社も何件発生した、と把握できないはず。
では、搭乗手続きをした数と搭乗者数が不一致していることに航空会社が気付けるのはどういうケースなのか。
それは、搭乗手続きをした乗客が搭乗ゲートに現れなかった時です。
今回の調査には、そのような数も含まれているのでは、と推測しますが、どうでしょうか。
これは、ちょくちょくあることです。
乗客がうっかり搭乗手続き後搭乗ゲートに来るのが遅れて乗り逃すケースもあれば、まれだと思いますが、搭乗手続き後に予定や気分が変わってそのまま意図的に現れない乗客もいます。
これは、航空会社にとっては仕方のないことです。
基本は飛行機が出発する前にその乗客の搭乗手続きをキャンセルします。オフロードといいます。
少し話が飛びますが、飛行機は乗客の数や座席位置を考えて安全に離陸し、飛行し、着陸できるかを計算しています。
その計算をウエイトアンドバランス、略してウエバラといい、計算した紙をロードシートといいます。
乗客をオフロードした時はロードシート上にもそれを記載します。
たいていの場合、乗客1人がオフロードになっただけでは再計算までは必要なく、ウエバラの資格保持者が手書きでさらっと書き加えるだけです。LMC(Last Minutes Change)といいます。
例えば「客室のAゾーンから大人の男性乗客が降りたので、マイナス75キロ」とか。もちろん英語でちゃんとした書き方がありますが。
乗客をシステムからオフロードし、ロードシート上にも反映する。
そして、もし預け入れ荷物があればそれも取りおろす。
そこまですれば、この人数不一致は問題ありません。
もし国土交通省が「搭乗手続き通りの人数がそろうまで出発するな」と言ったら、飛行機いつまでも飛べませんからね。
ともあれ、今回の調査の詳細はニュースになっていませんし、今後の航空会社の対応もまだわかりません。
安全、定時、利便性。
それらをはかりにかけた時の重要度は
安全 〉 定時 〉 利便性
ですが、安全のために定時と利便性を完全に犠牲にすることもできません。
しかし今の世の中、特に9.11テロ以降は安全のために乗客の利便性がどんどん削られていっています。
今回のインシデントを受け、今後ANAが社内的に「気をつけましょう」と注意喚起、再教育だけして済むのか、はたまた何かシステムや手続き自体が変わり乗客の利便性に影響が出るのか。
まぁある意味日本の国内線は先ほど書いた通り甘すぎるので、多少の痛みは仕方ないのかもしれませんが。
今後が気になるニュースでした。

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